今回は、「事業価値査定の過大評価がもたらす問題」というテーマで掲載します。
病院、診療所(クリニック)のM&A(事業継承)において、事業価値査定の過大評価は買収プロセス全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。過大評価とは、買収対象となる病院や診療所の実際の価値よりも高い金額で評価されることを指し、このような状況が発生すると買い手側は不要なリスクを背負うことになります。以下では、事業価値査定の過大評価がもたらす主な問題点と、それを回避するための対策について解説します。
1.過大評価が引き起こす主な問題
1)買収後の資金繰り悪化
過大評価によって高額な買収金額を支払った場合、買収後の運転資金が不足するリスクが高まります。これにより、設備投資や人材採用といった必要な支出が制限され、病院、診療所の運営に支障をきたす可能性があります。
2)投資収益率(ROI)の低下
買収金額が高騰すると、投資に対する収益が減少します。特に、買収対象の病院、診療所が期待された収益を生み出せない場合、投資の正当性が疑問視されることになります。
3)経営統合の難航
事業価値査定の過大評価は、買収後の統合プロセスにおいても影響を及ぼします。例えば、予測していた収益が実現しない場合、従業員の士気低下や組織内の不安感が増大し、スムーズな統合が困難になります。
4)買い手の信用失墜
買い手が過大評価に基づいて取引を行った場合、外部の利害関係者に伝わると、経営判断の正確性に疑問が生じ、信用が低下する恐れがあります。
2.過大評価が発生する原因
1)不十分なデューデリジェンス
財務情報の分析不足や、事業リスクの見落としが原因で、実際の事業価値を正確に把握できないことがあります。
2)業界特有の変動要因の過小評価
医療業界では診療報酬改定や地域医療需要の変動など、外部環境の変化が病院、診療所の収益性に大きな影響を与えます。これを適切に織り込まない評価は、過大評価に繋がります。
3)楽観的な収益予測
買い手が成長性や患者シェア拡大を過剰に期待し、収益予測を楽観的に設定することも過大評価の一因です。
3.過大評価を防ぐための対策
1)包括的なデューデリジェンスの実施
財務、法務、運営面の各分野にわたる詳細なデューデリジェンスを実施することで、評価の精度を向上させることができます。特に、過去の診療実績や未収入金リスク、地域医療需要の推移を慎重に分析することが重要です。
2)外部専門家の活用
独立した第三者の専門家を起用し、客観的な視点から評価を行うことで、過大評価のリスクを軽減できます。
3)シナリオ分析の導入
複数の収益予測シナリオを作成し、最悪のケースでも買収が正当化されるかどうかを検証します。このアプローチにより、リスクを適切に織り込んだ評価が可能となります。
4)買収後の統合計画の策定
買収後の経営統合計画を事前に策定し、シナジー効果が具体的に得られるかを検証します。これにより、収益予測と現実の運営が乖離しないようにすることができます。
4.まとめ
事業価値査定の過大評価は、病院、診療所のM&A(事業継承)成功を大きく損なう要因となります。適切なデューデリジェンスとリスク分析を徹底し、現実的かつ慎重な評価を行うことで、買収後の経営リスクを最小化することが可能となります。病院、診療所のM&A(事業継承)においては、短期的な利益追求ではなく、長期的な視野で持続可能な経営基盤を築くことが重要です。