今回は、「不十分なデューデリジェンスが招くリスク」というテーマで掲載します。以前のコラムで「デューデリの重要性」について掲載しましたが、今回はその詳細版です。
医療機関(病院、診療所)のM&A(事業継承)において、デューデリジェンス(DD)は極めて重要なプロセスです。このプロセスを通じて、買収対象の病院や診療所の財務状況、法的リスク、運営面での課題を明らかにし、意思決定をサポートします。しかし、デューデリジェンスが不十分である場合、後々重大な問題が発覚し、買い手・売り手双方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。以下では、不十分なデューデリジェンスがもたらすリスクとその回避策について解説します。
1.デューデリジェンスの役割
デューデリジェンスとは、買収対象の病院や診療所に関する詳細な情報を収集・分析するプロセスを指します。具体的には以下の分野を対象とします。
1)財務デューデリジェンス
①売上や利益の正確性
②負債の実態や資金繰り
③診療報酬の請求状況や未収金の管理
2)法務デューデリジェンス
①診療報酬請求に関するコンプライアンス状況
②訴訟リスクや契約上の問題点
③資産の所有権や担保権
3)運営デューデリジェンス
①医療従事者の離職率や働き方の状況
②設備の老朽化状況
③地域医療における役割と評判
2.不十分なデューデリジェンスにより起こりえるリスク
1)財務上の予期せぬ損失
デューデリジェンスが不十分であると、買収後に財務的な問題が発覚することがあります。例えば、診療報酬の過誤請求が後から判明し、返還請求が生じるケースや、簿外負債が存在していた場合が考えられます。
2)法的トラブルの発生
契約や規制に関する問題が未確認のままだと、買収後に法的なトラブルに発展する可能性があります。例えば、労働環境に関する法令違反が放置されていた場合、行政指導や訴訟リスクを抱えることになります。
3)運営面での混乱
従業員や設備に関する問題を把握せずに買収を進めると、運営上の混乱が生じる可能性があります。たとえば、重要な医師が退職する計画があった場合や、医療設備が早急な更新を要する状況であった場合、予期しないコストが発生します。
4)地域医療への悪影響
買収対象の病院が地域医療で重要な役割を担っている場合、不十分なデューデリジェンスは地域住民や自治体との信頼関係を損なう結果を招きかねません。これにより、患者数の減少や地域社会からの批判を受ける可能性があります。
3.リスク回避のためのポイント
1)専門家チームの編成
財務、法務、医療運営の各分野に精通した専門家をチームに加えることで、デューデリジェンスの網羅性を高めることができます。
2)十分な時間を確保
デューデリジェンスは時間がかかるプロセスです。買収スケジュールを適切に調整し、十分な検討時間を確保することが重要です。
3)重点分野の特定
買収対象の病院や診療所が抱える特有のリスクを見極め、それに応じた重点的な調査を行うことが重要です。例えば、高齢化地域での医療需要や診療報酬の特異性を考慮する必要があります。
4)買収後の統合計画(PMI)の策定
買収後の運営計画を事前に策定し、潜在的なリスクを最小化する準備を進めます。これにより、買収後のスムーズな統合が可能となります。
4.まとめ
不十分なデューデリジェンスは、M&A(事業継承)を成功に導く上で重大な障害となるリスクをはらんでいます。買収後に問題が発覚した場合、その解決には多大なコストと時間がかかるだけでなく、運営面への影響も避けられません。そのため、デューデリジェンスを徹底し、専門家の力を借りながら包括的なリスク分析を行うことが不可欠です。これにより、M&A(事業継承)を通じて地域医療を支え、持続可能な医療提供体制を構築する事が可能になると思います。