今回は、「病院、診療所のM&Aにおける失敗の要因」というテーマで掲載します。
病院、診療所（クリニック）のM&A（事業継承）は、地域医療を支えるための有効な手段として注目されていますが、そのプロセスには多くのリスクが潜んでおり、計画が失敗に終わるケースも少なくありません。以下では、特に失敗の要因となりやすい「文化の違い」「患者離れ」「資金問題」に焦点を当て、それらを防ぐための方策について解説します。
１.文化の違いによる対立
病院、診療所のM&A（事業継承）では、売り手と買い手の文化や価値観の違いが大きな壁となることがあります。
１）経営方針や診療スタイルの不一致
買い手が導入する新しい経営方針や診療プロセスが、売り手側の従業員に受け入れられないケースがあります。例えば、効率重視の方針が従来の患者第一主義と衝突する場合です。
２）従業員の不安と離職
売却後に従業員の処遇が悪化すると、信頼を失い退職者が増加するリスクがあります。特に、給与や労働環境の変化が原因となることが多いです。
３）地域住民との信頼関係の損失
売り手の院長や医師が患者との長年の信頼関係を築いていた場合、買い手がその関係を引き継げず、地域住民からの支持を失うことがあります。
２.患者離れの問題
M&A（事業継承）後、患者離れが起きることは医療機関にとって致命的です。その要因には以下のようなものがあります。
１）診療科目の変更
M&A（事業継承）後に診療科目が縮小されると、患者が離れる原因となります。地域医療のニーズを軽視した決定は大きな影響を及ぼします。
２）サービスの質の低下
人員削減や経費削減を目的にしたM&A（事業継承）では、医療の質が低下する可能性があります。例えば、待ち時間の増加や診療時間の短縮が患者の不満を招きます。
３）イメージの悪化
地域住民にとって、M&A（事業継承）は「病院の利益追求化」と映る場合があり、これが患者離れを引き起こす一因となります。
３. 資金問題による経営破綻
M&A（事業継承）には多額の資金が動きますが、その計画が甘い場合、資金問題が失敗の原因となることがあります。
１）過剰な買収価格
買い手が市場価値を超える価格で病院や診療所を購入すると、その後の経営負担が増大し、資金繰りが悪化するリスクがあります。
２）予想外の経費
M&A（事業継承）後に老朽化した設備の修繕や、法規制への対応など予想外のコストが発生することがあります。これが財務悪化の原因となり得ます。
３）資金調達の失敗
M&A（事業継承）に必要な資金を適切に調達できない場合、契約が途中で破綻するケースもあります。
４. 失敗を防ぐための対策
１）文化の統合を重視する
M&A（事業継承）の初期段階で、売り手と買い手の価値観や経営方針をすり合わせることが重要です。従業員や患者への説明会を開催し、理解を深める機会を設けましょう。
２）地域医療ニーズの調査
M&A（事業継承）前に、地域の医療ニーズをしっかり調査し、それを尊重した診療科目やサービスの維持を契約条件に含めます。
３）綿密な財務計画
適切な資産評価とデューデリジェンスを行い、現実的な買収価格を設定します。また、潜在的なリスクに備えた資金計画を立てる必要があります。
４）専門家の活用
医療機関のM&A（事業継承）に精通したコンサルタントや弁護士、会計士を活用し、法規制や契約内容を慎重に検討します。
５. 失敗事例から学ぶ：具体的なケーススタディ
事例：患者離れが経営危機を招いたケース
ある地方病院が大手医療法人に買収されました。しかし、買収後に診療科目が削減され、地域住民からの反発が発生し、更に、従業員の労働条件も変わり、従業員の離職率も上昇しました。結果として患者が減少し、病院の収益が大幅に低下しました。
教訓：地域住民のニーズを無視した決定が、医療機関の存続に重大な影響を与えることを示しています。地域医療の重要性を再認識し、慎重な計画が必要です。
６. まとめ
病院、診療所のM&A（事業継承）における失敗は、文化の違い、患者離れ、資金問題といった要因に起因することが多いです。これらを防ぐためには、慎重な準備と計画、専門家の活用が必要です。M&A（事業継承）は医療機関の未来を左右する重要な決定です。適切な対応を行うことで、地域医療を守りながら成功を収めることが可能になります。
