M&A(事業継承)は法務や税務が絡んだ複雑な業務です。それまでまったくの他人同士が事業を売買することになりますので、相互の利益保護を図る上でも複雑な業務になります。従って、M&A(事業継承)の進行の過程では、口頭での話し合いに頼っていますと記憶の相違や思い違いによるトラブルが生じる可能性も高くなります。重要度の低い項目であれば修正も可能ですが、重要度の高い項目で誤解が生じた場合は、以後の交渉に支障をきたしたり、悪くすればM&A(事業継承)そのものが流れてしまう可能性もあります。このような不測の事態を防ぎ。M&A(事業継承)を円滑に進めるためには、重要な節目で要点だけでも、買い手の同意確認を取るとか、話し合いの後すぐに議事録を作成してお互いに保管しておくことが重要です。
次に、M&A(事業継承)後の観点からも文書化は重要になります。法務面では、契約書を適正に締結しておけば、取引当事者によほどの悪意でもない限り、後日売り手の経営者が困ることはないと思いますが、税務については、出資金譲渡であれ営業譲渡であれ、売却後に売り手経営者・出資者が税務申告をする際に重要になります。事業の売却からは譲渡益が発生する可能性が高いですので、売り手経営者・出資者は税務当局に税務申告をする義務を負うことになります。従って、事後の税務申告のために進行中の関係書類を適正に残していく必要があります。出資金譲渡の場合は、申告は出資者個々人に任されますが、申告の際には出資金評価の根拠を明確にする必要があります。出資者が多い場合には、機密保持の観点からもM&A(事業継承)が決まるまで、各出資者に逐一連絡したり資料を提供するわけにはいきませんので、各出資者が申告の際に困らないように、説明ができる資料を整理して渡すことが必要です。最低限、専門家が作成した出資金鑑定評価書が必要で、含み資産が出資金評価に大きく影響している場合は、加えて当該資産の鑑定書等も必要となります。
最後に、買い手との交渉の結果、実際の売買価格が鑑定書より低い場合もあります。このような場合には、価格の交渉経緯が説明できるように文書化しておく事が重要です。尚、これらの文書の作成・提供も実際はアドバイザーの重要な役目になります。